「教育の国際化」による町づくりの可能性
2003年2月8日 教育の国際化研修会での報告 於:大和町役場

夢っくす事務局  武田里子
1.はじめに

うおぬま国際交流協会事務局の武田です。本職は国際大学の職員で留学生担当をしています。本日は、山西先生から、「学校と地域の連携について」地域の視点から学校に対する要望について話題提供をして欲しいというご依頼を受けました。しかし、すぐには何を話してよいのか具体的な内容が思い浮かびませんでした。これは、要望がすぐに思い浮かぶほど「問題」が表面化していないことと、学校のことは地域には見えにくいためではないかと思います。大学も同じですが、学校はもともと外部の人たちを内部に入れたがらない性質があります。

しかし、今日の研修会の案内には「大和町における、学校や地域ボランティアの現状と課題について」とあり、逗子にお住まいの山西先生がこのテーマを扱うには、私達の側から材料提供をしなければ成立しません。そこで私は、日本全体の多文化化の進展が大和町にも反映されていること、留学生受入れと小中学校での外国人児童生徒の受入れ課題の共通点と相違点、そして、教育の国際化が大和町の町づくりという視点から捉えたとき、大きな可能性を秘めているという私見を述べさせていただこうと思います。

2.外国籍児童生徒の増加

外国人児童生徒が日本の学校の中で急速に増えてきたのは90年代に入ってからです。留学生受入れの方は、83年に「留学生10万人計画」が打ち出されてからのことですから、小中学校に比べると大学の方が教育の国際化について少し蓄積があります。ただ、親の都合で日本にやってくる児童生徒と違って、留学生は自ら日本留学を選択してくるという大きな違いがあります。でも、留学生を受け入れている大学と外国人児童生徒を受け入れる小中学校、高校には共通している点もあるように思います。

それはつい最近まで、日本の教育政策は児童生徒、学生はすべて日本人であることを前提にしてきたことによります。学校や学級は集団単位に組織され、個々人の違いはどちらかというと押しつぶしてしまう傾向をもっていたのではないでしょうか。最近になってようやく「輝く個性」といった表現が使われるようになってきました。

大学で学生に占める留学生の比率が1%や2%と小さいうちは、留学生は「日本語」というハンディキャップを抱えて、ひたすら日本の大学のルールに従うしかありません。受け入れた大学も「ここは日本だから日本のルールに従え」、「日本語はできることを前提に扱う」という対応が一般的です。ところがこの割合が一定のレベル―5%といわれていますが―を超えると、留学生たちは発言権をもった主体に変わると言われています。それでも、一般的には母国と違った授業スタイルや履修方法、単位制度、教員と学生との距離感を理解し、外国語である日本語で授業を受け、日本語でリポートや論文を書かなければならない留学生は大変です。しかも、生活費の高い日本で留学生活を送るためには多くの留学生はアルバイトもしなければなりません。従って、問題があっても要望があっても、それを追求する時間的物理的余裕がないまま不満を蓄積させているケースが多いように思います。

小中学校の児童生徒の場合はどうでしょう。先生との関係は大人と子供という関係ですので、力関係は絶対的なものになりがちです。厳しい「校則」もあります。日本の感覚でいえば小中学生がピアスをするなんて問題外ですが、中近東や南米、アジアの多くの国々では両親から女の子への最初のプレゼントがピアスといったケースが多いと聞きます。

そういったことを理解してくれる教員と出会えるかどうかは、外国人児童・生徒にとってはとても大きな意味をもちます。 留学生でさえ、指導教授との人間関係がこじれて留学生活を断念するケースがあります。そうしたリスクを分散させるためには、いくつかのチャネルを用意することが大切ではないかと思います。その有力なチャネルの一つが地域であり、学校にかかわるさまざまな外部の団体や個人です。

また、地域にさまざまなチャネルがあることによって、救われるのは外国人児童生徒に限らず、日本の子供たちも同様です。今後そうした地域の教育力の有無が教育現場では大きな意味をもつようになるのではないかと思います。

3.地域連携のめばえ

私たちは、教育の国際化推進地域事業のお陰で、昨年から、山西先生の研修会や、日本語研修会を通じて、浦佐小中学校の先生方と交流する機会をもつことができました。こうして学校、地域、そして行政担当者が、教育の国際化について一緒に考える場をもてたということ自体が、この事業の大きな成果だと思います。

半年間の先生方との交流を通じて私自身が認識を新たにし、また、この地域の特殊性として確信したことが3つあります。

1つ目は、浦佐小学校の20名という外国人児童数の多さです。人口13万人の武蔵野市が年間に受け入れる外国人児童生徒が10名前後ですから、全国的に見てもかなりの数字です。まだ、2名とのことですが、国際結婚により定住する子供たちの転入も始まっていることを知りました。そしてすでに、先生方がその子供たちに高校受験に耐えうる学力をどのようにつけるかということに心を砕かれていることを知り、非常に心強く感じました。

2つ目は、こと浦佐小学校に関しては、岡村校長先生をはじめ先生方が、外国人児童に日本と母国との学校生活の違いについて発表する機会を作るなど、子供たちが相互に学びあう関係を大切にされていることに心を打たれました。また、帰国した児童との交流を続けるなど、大学でも参考にしたい事例を教えていただきました。

3つ目は、大和町の町づくりという観点から教育を考えると、外国人児童生徒の教育体制と、世界50カ国から集まってくる国際大学の留学生ならびに日本人学生は、素晴らしいパートナーになるという確信です。

現在、外国人登録をして日本に暮らしている外国人は178万人です。そのうちの7割が定住を前提としています。年間の国際結婚の総数は3万件で、比率でいうと結婚総数の4.5%。日本人の22組に1組が国際結婚で、山形県では14組に1組、東京では12組に1組です。また、父母の一方が外国籍の子供の出生数をみると、東京では14人に1人、大阪では13人に1人の割合になっています。こうした状況を反映して学校現場の多文化化はかなり速いスピードで進んでいるようです。

大和町もそうした日本全体の影響を受けずにはいられません。 大和町にも今後、日本で高校受験をしなければならない外国人児童生徒が増えてくるだろうと思います。そうなると日本語指導にとどまらず、学力保障、進路指導、母語保障を含めた外国人児童生徒のアイデンティティをどのように育てていくのかという課題がでてくると思います。この分野は従来の学校教育の中で想定されていません。

先生方には負担に感じられると思います。一人や二人のためになぜ多くの労力を割かなければならないのか、という現場の声があるかも知れません。しかし、それは、日本政府が国際人権規約や子供の権利条約等を批准し、「日本国内に居住する人はその国籍、人種、民族、宗教を問わず公平な保健医療、福祉、教育サービスを享受する権利がある」という立場にたった関係法規を定めているからです。外国人住民や児童生徒に対する日本語学習支援は、自治体の地域住民に対する言語保障の問題として考えなければなりません。

「地域連携」については、大学での留学生支援の発想が参考になるかもしれません。留学生は大学で勉強をするだけの存在ではありません。地域に暮らす外国籍住民でもあり、買い物にも行きますし、病気になれば病院にも行きます。子供たちは地域の学校に通うわけです。そういうことから「地域連携」という課題がクローズアップされるようになってきました。最近は、もう一歩進んで、大学の本来の機能である教育のためにも地域連携が必要であるという認識が広がっています。

これは小中高での「総合的な学習の時間」に共通する発想ではないかと思います。つまり、留学生は学位を取得することが第一の目的ですが、同時に日本を留学先に選んだ動機には日本の文化社会への関心が根底にあるわけです。その目的を達成させるためには、日本社会との接点をシステムとして作り出していくことが必要です。大学内で完結することは限られています。 これが、うおぬま国際交流協会の設立を意図した理由の一つです。

4.連携体制を継続させるにはシステム化が必要

小中学校の場合も「教育の国際化」や「外国人児童生徒の学習支援」という課題を検討する上では、PTAのみならず、地域のさまざまな組織、リソースとの連携が必要になってくると思います。母語での教育サポートの実践事例については、国際学級担当の大平智子さんから、後ほど補足説明していただきたいと思います。これは、日本語も英語も十分できないために、数学でつまずいてしまったマレイシア国籍の中学生を国際大学の留学生がマレー語で補習を始めたという事例です。

このように留学生を地域リソースとして位置づけると、定住外国人のための日本語教育や、母語での学習支援など、工夫次第で他の地域ではできないユニークな可能性が開かれてきます。 個人名を出して恐縮ですが、大平智子さんは来月で雇用期間が切れる臨時職員です。昨年の夏から、小中学校との連携が進展した要因は、大平さんが夢っくす会員で小中学校と大学、あるいは留学生との橋渡し役をなさったことが大きかったと思います。これは学校機関というよりは、大平さん個人の職務に対する責任感と情熱に支えられてきたものです。大平さんがいなくなって、4月以降も同様の対応が可能なのかどうか、不安定要因です。

5.大和町・うおぬまの可能性

国際大学には途上国の経済発展過程の課題を教育・研究するプログラムがあり、途上国の政府職員が多く学んでいます。その人たちは日本留学を選択した理由として、急速な経済発展に成功した日本の経験を学びたいといいます。世界には貧しい国と豊かな国の問題がありますが、日本国内にも地方と都市との間の経済格差の問題があります。

先生方が一生懸命子供たちを教育し、優秀な人材を育てても、そうした人材の多くは都市に流れ、地元には戻ってきません。学んだ知識や技術を生かす職場がないということが一番大きな原因です。こういう状況は途上国そのもので、私は留学生と話していると大和町は途上国と非常に似た問題を抱えていると共感を覚えてしまいます。

学校関係者の関心事が「子供たちをどのように教育するか」だとすると、地域は、その子供たちが身につけた知識や能力を発揮できる「場」の確保、つまり「地域づくり」とどう結びつけるのかという発想になります。私は、大和町のユニークな環境を積極的に受け止めて、教育をメインにした町づくりが可能ではないかと考えています。

ご承知のように「雪国まいたけ」は健康食ブームでアメリカに進出し、アメリカで採用した職員との人材交流が始まったと伺っています。日本で研修を受けるためのに来日するアメリカ人職員への日本語教育をどうするのかという課題に直面しています。また、藪神にある八海クリエイツは昨年から中国で部品生産を始めました。八海クリエイツの社長は夢っくすの会員で国際大学の卒業生でもあります。たまたま社長に中国進出の能力とノウハウがあったからですが、このように身近に経済のグローバル化を実感させる事例が生まれています。

もし、大和町が外国人児童生徒に対応可能な地域の教育力があるということになったら、地域の日本語支援体制もあるということになったら、企業内転勤などで新潟県内に暮らす外国人が大和町に移り住み、お父さんは新幹線で仕事に通うという可能性もあると思いませんか?国際情報高校の生徒たちが新潟や長岡から新幹線で通学していることを考えれば、地域に魅力があれば人は集まります。多様な人々が集まることによって地域は活性化します。

目覚しい経済発展を遂げている中国は、文化大革命の後、混乱による遅れを取り戻そうと、優秀な人材を世界各国に留学させました。1978年以降その数は40万人と言われています。中国政府は、留学した人々が学んだ知識や技術をもって中国の発展に貢献することを期待していたのですが、そうした人々の多くは国に罰金を払っても帰国しませんでした。ところが最近になって、約15万人が帰国したといわれています。中国政府が優秀な人材の帰国を促すために、無料の航空券や住宅を用意するとか、起業資金を融資するといったインセンティブ政策をとったこともあります。しかし、一番の誘因は、改革開放政策によって、中国がビジネスチャンスのある魅力的な国になったためだと思います。

少々脱線しましたが、私は途上国の苦悩と中国でのこうした現象とが大和町というか魚沼と重なって感じられます。自分の生まれ育った地域が魅力的であれば、そして雇用の機会があれば地域のために貢献したいと考えるのが自然でしょう。 魅力的な地域づくりを進める上で、大和町のリソースを考えると「教育」は非常に有力な分野です。これを確実なものにしていくためには、さまざまな人々が集う「場」の設定が必要ですし、関係者のネットワークの構築が欠かせません。その仕組みをどう構築していくのか、いけるのか、参加者の皆さんと意見交換したいポイントです。また、山西先生からは、他所の地域の参考になる事例があれば教えていただきたいと思います。 以上、大和町は「教育の国際化」を切り口にとてもユニークな町づくりの可能性があるということをまとめにさせていただき終わります。ありがとうございました。